2010/05/15

生きるために必要なこと

カナダのケベック州は、シルク・ド・ソレイユやモントリオール映画祭でご存知のように、芸術に力を入れていることで有名なようです。



そのケベック州の優れた映画を一挙に上映するイベントがあり、

今日、行ってきました。

目当ては「生きるために必要なこと」

50年位前のカナダが舞台です。





2008年のアメリカのアカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品です。

(ご存知の通り、この年は「おくりびと」が受賞しました。)









イヌイットのチビルは、狩りをしながらバフィン島で妻と幼い娘二人と暮らしています。



ある日、大きな船がカナダ本島からやってきます。

当時結核が流行っており、その船は、検診船とでもいうのでしょうか、

結核に罹患してないかどうかを調べる船なのです。



島の住人全員がその船で検査を受けることになり、チビル一家も出掛けていきました。

船の中では白人達が手際良くイヌイット達に検査の順路を指示しています。



検査が一通り終わったところで、チビルはこう告げられます。

「あなたは結核に罹っています。あなたを船から出すことはできません。家族の方は帰ってもいいです。」



が〜ん。



「僕がいないと狩りをする者がいなくなるから僕は家族と離れる訳にはいかない」

訴えますが、家族は引き離されます。



三ヶ月かけてチビルはケベックの療養所に到着します。



着ていた防寒着は捨てられ、パジャマに着替えることになります。

ぼさぼさだった髪も七三みたいなサラリーマンカットに。

食事は見たことも無いスパゲティとかがでてきます。食べ方も分かりません。



一番のとまどいは、言葉が全く通じないことでした。



彼はイヌイットの言葉しか話せませんが、そこには彼の言葉を理解できる人は一人もいませんでした。



どんなに彼が困っていても、医者も看護婦も患者仲間も、みんな全く理解できないフランス語でまくしたてます。



孤独に我慢できず、彼は逃げ出しますが発見され連れ戻されます。



辛くて辛くて生きるのが嫌になった彼は、食事を摂らなくなってしまいます。



とうとう倒れてしまった彼が目を覚ますと、同じイヌイットの少年が立っていました。



その少年はカキといい、両親を失い、祖母に育てられたが罹患していることがわかり、

二年前に別の療養所に連れてこられたということでした。



チビルの担当の看護婦さんがカキをチビルと同じ療養所に転院させてくれたのでした。



カキは既にある程度のフランス語も話せて、チビルの話し相手だけではなく、通訳としてもチビルを助けてくれました。



両親がいないカキにとってはチビルの狩りの話しは興味深く、また息子のいないチビルにとってもそんなカキが心の支えになりました。



月日は流れ、チビルはとうとう退院の許可が出ます。

「一ヶ月後には島に帰る船に乗れるよ」と主治医から伝えられ、チビルは早速カキのところへやってきます。



「カキ、一緒に退院しよう。君さえ良ければ、僕の子どもにならないか?」

「狩りを教えてくれる?」

「もちろんだ」

「そこはどんなとこ?」

「ここみたいに木が邪魔をしないから、ずーっと遠くまでなんでも見えるんだよ。アザラシだってカリブーだって生きために必要なことは全て揃っている」



カキはチビルの申し出を受け入れました。



チビルは看護婦さんにもそのことを伝えますが

「養子縁組はそう簡単ではないのよ」

「君たち白人はすぐにダメっていう!」

とフランス語とイヌイット語で言い合いになってしまいます。



この看護婦さん、今度はイヌイット出身の牧師を探し出してきてくれます。

その牧師さんの尽力でなんと、カキはチビルの養子になる許可がでます!



けれども実は、カキの病状はかなり悪化していたのです。

この素敵な養子縁組の決定の数日後にカキは容体が急変して、亡くなってしまいます。



カキの葬儀を済ませたあと、チビルは島へ帰る船に乗り、また家族の元に帰っていくのです。









カルチャーギャップをテーマにした映画です。



チビルが妻に「ここは食べ物は沢山あるが、食欲はない。人は沢山いるけれど、話し相手はいない。」

と手紙に書きます。



なんという孤独感でしょう。



カキが来てからは、チビルはみるみる元気になっていきます。

言葉が通じるって大切。



知人でインドネシア語を習っている人がいます。

(ちなみに彼は英語は英検一級の腕前です。すばらしい。)

インドネシア語を習う理由を尋ねた事があります。

「インドネシアから日本にやってきて、インドネシア語の話せる人に合えたらうれしいでしょ、きっと。」

という回答でした。



その心がすばらしい。



2 件のコメント:

tiotio さんのコメント...

ナルナル89さん、こんばんは。

この映画祭の冒頭、ケベック州政府在日事務所代表の方が挨拶で、映画はその国の文化を海外へ伝える優れたツールでもある、というような事をおっしゃっていました。

映画は50年位前のカナダを舞台にしていますが、カルチャーギャップは、世界共通で時代を越えて起こりうる課題ですから、誰が観ても得るものがある内容でした。

私も何度も切なくなって涙があふれました。ハンカチ必須です。

ナルナル89 さんのコメント...

tiotioさん、こんばんは。確かに言葉が通じてニュアンスが分かるってのは病気の時はチカラになりますよね〜(笑)何か泣いてしまいそうなので、たぶん見る機会があっても観ないと思う。最近、涙腺が緩いンです